欽明天皇の時代、朝鮮半島の情勢が混乱する中、百済から釈迦像と仏典がもたらされました。それまで日本は八十万神の存在を信じる国であったため、軍事や祭祀に携わっていた物部氏と中臣氏は仏教の受け入れを拒否しましたが、渡来人との結び付きが強かった蘇我稲目は、欽明天皇から授かった仏像を礼拝するようになりました。しかしその直後に疫病が大流行しました。物部・中臣の両氏は仏教のせいで「国神」が怒っているとして、仏像を難波の堀江に投げ捨ててしまい、蘇我氏と物部氏の争いはエスカレートするばかりでした。

推古女帝は、まず仏教をめぐる争いに終止符を打つため「三宝興隆」の詔を発し、仏教を盛んにせよと命じました。それに先駆け、すでに馬子は飛鳥寺を、厩戸皇子は四天王寺の創建を始めていました。また朝鮮半島の不安定な情勢もあり、百済や高句麗から次々と僧が渡来するようになります。この僧たちがもたらしたのは仏教だけではなく、寺の建設をはじめとする最新の技術や学問、芸術、文化なども伝えました。そして603年、それまでの宮殿と異なった新しい様式の小墾田宮が完成しました。

607年、小野妹子が第2回遣隋使として派遣されたときの国書は、煬帝は自らと同じ「天子」を日本の天皇が自称したことで、「蛮夷の書だ」と激怒したといわれています。それでも煬帝が裴世清を答礼使として日本に派遣したのは、当時の隋は高句麗との対立が深まり、高句麗討伐を計画中で、日本を敵とすることを避けたいという事情があったからです。また朝鮮半島の百済や新羅が日本と親密な関係を築いていたことを、煬帝も認識していたのでしょう。こうして、隋と日本の対等外交の道が開け、これ以降、中国の皇帝と君臣関係の枠外で独立国としての関係を保ち続けました。

隋から戻った遣隋使は、仏典だけでなく、さまざまな新しい文化をもたらしました。暦や天文学、地理、音楽、薬学など当時の最新の文化が伝えられたのでした。また隋の政治制度も導入されました。もちろん推古女帝は、天皇家が古くから政治のよりどころとし、多くの人々が信仰してきた「国神」を捨て、仏教だけを信仰することはありませんでした。599年に起きた大地震のときには諸国に地震の神を祀らせ、また607年には「群臣は心をつくしてよく神祇を拝するように」と「敬神の詔」を発しました。これは仏教との衝突を、伝統的な神祇を根本に据えた方策で乗り切ろうとした、推古女帝ならではの知恵といえるでしょう。そして隋からの新しい文化も日本の伝統文化と融合しながら、上手に取り入れたのでした。

蘇我馬子のあとを蝦夷が継ぐと、再び皇位継承争いが起きます。死期を悟った推古女帝は、対立する敏達天皇の孫にあたる田村皇子と、厩戸皇子の息子の山背大兄皇子を病の床に呼んで遺言しましたが、後継者の明言は避けます。